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僕は霧散直也。17歳。高校生だ。
中学3年になり、部活が終わり、ただ勉強だけはしっかりしていたら、ここらでは有名な進学校に入学出来た事もあり、一時は周りからチヤホヤされたが、最後まで僕を見てくれたのは、母親とおじさんと、一人いる親友とだけだった。
因みに、僕は他の人とは少し違う。
何が違うのかは、今は伏せておこう。後々分かる事だからだ。
自転車を走らせて47分。やっと着いた、おじさんの知り合いの家…ではなく、仕事現場。
元は工場か何かだったのだろうか。重機を引きずった跡や、壁に大きなヒビも見える。
中に入るには少し躊躇したが、1万円を渡されたバイトだ。しっかりと、後腐れのないようにと言う訳では無いが、しっかりとやり切ろう。そう思った為、埃だらけの作業場の中に入って行った。
作業場。おじさんの知り合い。坐遠九竜さんは、その業界では知らない人はいないと言われている、凄い職人さんらしい。あまり話は聞かされなかったが、おじさんの声のトーンの高さから、それ程凄い人なのだろうと、そこからも推測出来た。
トントン……。
「霧散…直也です。霞原竿一さんから、お届けものを持って来ました…」
霞原竿一と言うのは、つまりおじさんの事だ。
返答が無い。そんなに強固なドアではない。この薄い一枚の壁の向こうに、本当に坐遠九竜さんはいるのだろうか。いたとしても、眠っている可能性が高い。
もう一度、声を上げた。
ドン…ドン…。
「霧散直也です。霞原竿一さんから、お届けものを持って来ました…! 」
返事はやはり無い。まるで命の無いドアに喋りかけているようだ。いや、その通りなのだが。
虚しい限りだ。俺は何をしているのだろう。そうまで思えてくる。
その時だった。
カァーーンッッ!
「な、何だ?」
今さっきまで無音。全くの音沙汰無しだったドアの向こうから、甲高い、金属を打ち付けたような音が聞こえて来た。
誰か、いるのか?誰か、いるんだよな。そりゃあ。なら、何故出てこない?まあ、いい。
ドンドン
「霧散直也です。坐遠九竜さん…?」
何故……出て来ないんだ…。
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