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翌日辰の刻 源治の『屋敷』
源治とハチは恨めしそうに降り続く雨に愚痴をこぼしていた。
「親分、それにしてもよく降る雨ですねえ。かれこれもう十日以上ですぜ」
「おう、おれも江戸にいてこんなに長く雨が続くのは初めてだ。まったく、お天道さんはどこに行っちまったんだ。『屋敷』のなかも湿っぽくてかなわねえ」
「本当に。この雨の中新大橋の鉄砲水騒ぎで夜通し探し回ってたわけですから身体が冷え切って仕方がねえです」
「下っ端の宮仕えは苦労するぜ」
すると、火鉢の前に腰掛ける源治の頭にぽとりと滴が落ちた。
「あっ?なんだ」
源治が天井を見上げるとまた滴が落ちて来て今度は顔に当たった。
「ちっ、とうとう雨漏りしてきやがった。まったくとんだ『ボロ屋敷』だぜ。ハチ、なんか受けるもの取ってくれ」
そう言われるとハチは、水がめの所にあった手桶を渡した。源治が住む『屋敷』は何せ九尺二間の長屋のため雨が降り続くと雨漏りし始めるのだ。しかし傷みのひどい『屋敷』のため、一度雨漏りをはじめると一箇所で済む筈はなかった。ほどなくしてあちらこちらから雨漏りを始めた。
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