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そんなふうに、一日を回想しながらぼうっと歩いているうち、俺はいつの間にか自宅付近の公園に差し掛かっていた。
昼間は子供たちで賑わっているのだろうが、夜の公園は少し不気味だ。
その公園の、入口の横を通り過ぎようとしたとき、生温い風が俺の身体を包み込んだ。
なんで急に風が?
俺はほぼ反射的に、公園の中を覗いていた。
無人のはずのブランコが揺れている――などということはなかったが、代わりに入口の片隅に、黒い服装に身を包んだ人影が見えた。
俺はぎょっとした。なのに、なぜか吸い込まれるように、その人影のほうへと足を進めていた。
「おやおや、まだ若いのに疲れはてた顔をしていますね」
くっくっ、と不気味な笑い声が聞こえてきて、俺は軽い身震いがした。
人影は、中年くらいの男だった。しかも、黒い服装はスーツなのかと思いきや、少しばかり違っている。俺も生で見たのは初めてだが、おそらくタキシードというやつだろう。
しかも、暗がりではっきりしないにしろ、口元には薄い笑みを浮かべているようだった。
どう見ても、正常な人間であるとは思えない風貌だ。俺の脳裏に、ドラキュラが月夜にマントを広げる姿が連想された。
「こんな時間にこんなところで何を?」
だが、なぜか俺は話しかけていた。これが営業職の職業病だろうか。
「何を、というのはありません。ただ、待っていただけです。私の力を必要とする者を」
ドラキュラ男は、また嫌な薄ら笑いを作った。
「そう……つまり、あなたのようなひとをですね」
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