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虚をつかれたが、酷く疲弊していたこともあり俺の頭は冷静だった。
「私……ですか?」
こんなときでも、一人称に私を使ってしまうのも職業病だ。
「それに……力、ってなんです?」
彼への警戒心から、半歩身を引いた。
「力、というと語弊があるのかもしれません。能力……うん、このほうがわかりやすい」
ドラキュラ男はぶつぶつと呟いた。
「あなた、時を戻したいと考えたことはありませんか?」
あっけに取られて少し反応が遅れた。
「時……を?」
「そうです。時を……時間を戻したい、と思った経験です」
「つまり、タイムスリップみたいに?」
ドラキュラ男をこっくりと頷いた。まるでぜんまいロボットのような動きだった。
そして、おもむろに黒い物体を取り出した。
「時間を戻して、もう一度今日をやり直すのです。不利益な現在を抹消し、有益な未来に書き換えることであなたはより良い道を進める……」
ドラキュラ男が一歩前へと踏み出してくる。
「ちょっと待ってくれ」
俺は両腕を前に突き出して彼を制止した。
「時間を戻してやり直す?そんな話をすぐに信じられるわけないだろ。第一、こんな玩具みたいなもので……」
「ものは試し、という言葉がありますよ」
ドラキュラ男は、その黒い物体を無理矢理俺の手に握らせた。
「とはいえ、今すぐ試すかどうかはよく考えてください。何せ、時間を戻す能力は、五回までしか使用できません」
「五回……」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。彼の淡々とした説明は、俺の心の奥の何かを揺り動かしていた。
「そう、五回。あなたは今、五回だけ人生をやり直す権利を得たのですよ」
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