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俺たちはしょっぱなから、歩く道を間違えたということだろうか。 何もかもが間違いだったのか――。 例えばそれは、今の職場へ就職したことも、千里と出会ったことも。いってしまえば、それまで歩んできた人生だって、決して百パーセント満足のいくものではなかった。 俺はいつも間違った道ばかりを選んでいる。そういうコンプレックスのようなものが、身体に染み付いているかのように錯覚するときもある。 間違っていたのだ。そう初めから何もかも――。 金曜日にも関わらず気分が沈みそうになったとき、ずっと手にしたまんまになっていた例の物を思い出した。 ドラキュラ男はいった。 これを使えば、過ぎ去った時間を戻すことができると。 もちろん、いまだ完璧に信じきったわけではない。だが、あの男がただ者ではないことは確定的だ。 この蓋の中にあるボタンを押してみたいという欲望が、俺の内部にふつふつと沸き上がっているのはたしかだった。 もしも本当に、時を戻すことができるのならば、その能力を行使してやり直したいと思うことは、この先いくらでもあるだろう。 例えば――今日の仕事での失敗だ。 これをやり直すことができれば、俺自身にとっても大きなプラスになる。 ただ、今の俺には、それに向かうだけの気迫と元気が欠如していた。仮に今日一日の時間が戻せたとしても、ある程度先の読めてしまう一日を、今からもう一度過ごしたいとは到底思えなかったのだ。 仮にこのボタンを試すなら明日以降、しかも当たり障りのないところでだな――俺は心中でひそかに決心した。 そのとき、千里が部屋を出て行った音が聞こえてきた。
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