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しかし、俺はすぐにおかしな感覚にさいなまれた。
やがて、見覚えのある風景が俺の目に飛び込んできたのだ。
そこにあったのは、つい今の今までいた、公園の入口だった。
「まさか……」
「どうも」
公園の入口には、ドラキュラ男がにんまりと笑いながら立っていた。
背筋がぞくぞくと震え上がる感覚を、俺は味わっていた。
本気で恐怖を感じているとき、人の身体はこんなふうな反応をみせるらしい。
「これはほんの余興です。タイムリープというほどのものではありませんよ。例えるなら、手品のようなものですな」
これが手品というのなら、世のマジシャンたちは食いっぱぐれることだろう。
「さて、ようやく能力を理解していただいたところで、そのスイッチについて説明しましょう」
俺は驚いた。返したはずの物体は、俺の手の中にあったのだ。
反射的に、握らされた黒い物を二人の目線の位置にまで持ち上げた。
やはり改めて見直しても、怪しく不気味な光沢をしている。
パンドラの箱、という言葉が俺の脳裏にはよぎった。
「このスイッチは、時間を二十四時間だけ、元に戻すことができます」
「二十四時間……ねえ」
つまり丸一日前に戻ることができるのだ。
「それ以上昔には戻れないのか」
男はこっくりと首を折った。やはり機械仕掛けのような動きだった。
「戻すことができるのは二十四時間――つまり一日だけです」
「ふうん」
少しがっかりだ。
「落胆されたようですな。しかしこれは私にすれば当然のことです。あまりに長い時間を遡ることは、たくさんの弊害を生むことになる……わかりますか?」
俺はぶんぶんと首を振った。
反面、だんだんとこのドラキュラ男の話に耳を傾け始めていることを自覚していた。
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