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「そうでしょうな。では簡単に説明しましょう」 男は一息を入れるように小さく吐息をついた。 「例えば、仮に十年の時間を戻せたとしましょう。あなたは今、おいくつですか?」 「二十……六だな」 少し考えてから俺は答えた。最近は、ときたま自分の年齢がわからなくなってしまう場面がある。 よろしい、というふうに、男は頷いた。 「となれば、十年前のあなたは十六歳――高校生ですね。当然、肉体も精神も現在のあなたとは違っている」 「まあ、違っているだろうな」 何の責任もなかったあの頃に戻りたいと、ふとそんなことを思った。 「そこに今のあなたの精神が潜り込んだ場合、はたして何の支障もなく生活できるでしょうか、というのが、長い時間を遡った場合の問題です」 妙な抑揚をつけて男がいう。 「それは、あれだ……タイムパラドックスとかいうやつか」 「少し違いますね」 男は素早く返答した。 「時間旅行の場合では、タイムパラドックスは問題のひとつになります。仮に、あなたが生まれる前に時間旅行をして、そこで両親のどちらかを殺害してしまった場合、あなたはこの世に存在しないことになる。まあ、簡単に説明するとこれがタイムパラドックスといわれるものです」 俺は無意識に相槌を返していた。
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