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「時間旅行の場合、あなたは自分が生まれるよりも過去に存在することができる。ある意味それもパラドックスのようなもの……」
「ん?わからないな」
俺は首を曲げた。
「時間旅行ってそういうものじゃないのか?」
「時間旅行はそうですね。……そこで本題です」
男は声色を改めてからいった。
「ズバリいいましょう。そのボタンは、時間旅行ではなく、物質をタイムリープさせる能力を持っているのです。タイムリープとは、いわば精神の時間移動です。要するに、時間旅行とは違って、あなたの精神だけがある別の時空間のあなたの肉体へと移動する。ゆえに、戻ることができるのは、あなたがこれまで生きてきた時間軸の中だけなのです」
「なるほど。つまり、同じ時代に俺が二人いる、なんて状況にはならないわけだ」
「御名答」
にやりと彼が笑った。その口の奥に見えた白い歯も、どこか機械的なもののように感じられた。
「ただ、それだけに、その時空間のイレギュラーな存在はあなたただひとりだけになる。未来を生きたことのあるあなただけしか知り得ない情報を、もしもタイムリープ先で開示してしまった場合、不必要に歴史を歪めてしまう。そのリスクを常に背負わなければならないですね」
「その分一日だけなら歴史を大きく変えてしまう可能性は低い……。それが、長期間の時間を戻させない理由か」
「さすが、察しがよろしいですね」
男はありきたりなお世辞をいってから、さらに補足した。
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