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「それと、私が懸念しているのは肉体と精神の不一致、という現象です。あなたがタイムリープをして十年前の自分に戻ったとします。すると、十年後からきた精神は経験をしていても、十年前の肉体はまだその経験を積んでいないという状況が起こりやすくなるのです。この差異は予期せぬ危機を招きやすい」
「……そんなもんかな?」
少し考えてみたが、あまりピンとこなかった。むしろ精神の経験値が高いほうが、何かと便利であるような気さえする。
「ときには危険ですよ。これはスポーツに例えるとわかりやすい。仮に精神があるスポーツの経験を持っていても、肉体が未経験であれば、精神に肉体がついてこれるとは限らない――むしろ、ついてこられないでしょう?」
その説明から、ようやく主旨が伝わってきた。
「たしかに、それはありえるかもな」
どちらかといえば、老後の肉体の衰えのような感覚に近いだろう。精神ができると過信していても、肉体が順応できないのだ。
「自動車の運転なんかも危険ですよ」
「そうだな」
まさか、こんなSFじみた状況で現実的な話をすることになるとは思ってもいなかった。
「そして、もうひとつ」
大事なことですよ、と男は前置きした。
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