8/21
前へ
/85ページ
次へ
俺は当てもなく歩き始めた。歩道には、溢れかえらんばかりの人間が歩いていて、そのせいで車道に出る者もいる。 しかも夜になれば路駐のタクシーが多いため、都会の道路状況はお世辞にも良いとはいえない。 ただ、都会の夜はやはり華やかだ。 アーティストの楽曲を流すだけの宣伝トラックがあるということを、俺は都会に出てきてから初めて知った。 そんなふうに、たくさんの街頭と喧噪と人混みに紛れているだけで、不思議と孤独を忘れられたりする。 そういう街を、今俺は歩いている。 目的は特になかったため、まずは最寄りの書店に入った。 マンガ本は封がされていて読めないため、向かったのは雑誌コーナーだ。 近頃はすっかりインドアになってしまったから、不必要な雑誌を買ってしまうことが多くなった。 活字を読むのことは、暇な時間を潰すには最適なのだ。 ただ今日だけは買うのをやめておいた。それより、タイムリープのネタを探すほうが先だ。 書店を出て、信号待ちをしていると、道路の反対側の先頭に一際目立つ美人が立っていた。 細身で色白で背が高め、丸顔の頭はほどよく小さい。丸顔は俺の好みなのだ。 そんなモデル体型の彼女だから、人込みの中でも際立っているのだった。 本来田舎者の俺には、都会は美人が多そうだという勝手な思い込みがあったが、これが案外そうでもない。 これもこの街に出てきて気づいたことだ。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加