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例えば――もしも時間が一日戻せるなら、ああいう美人を無理に口説こうとすることもできるのか、と俺は思った。 失敗したり面倒なことになったりしたら、一日前に遡って、その事実をなかったことにしてしまえばいい。 ふとそんな悪巧みが浮かんできたのだった。 なるほど、例の能力は、その日一日の行いをリセットするという考え方をしたほうが正しいのかもしれない。 一日好きなことをやって、その日をなかったことにする。ストレス解消には持ってこいだ。 何かそういうことはないものか――。 俺は、能力を行使してみたい衝動に駆られていた。能力自体の真偽と、昨日の仕事の失敗のことは、このときばかりは忘れ去っていた。 夕暮れ時まで、俺は街を練り歩いた。ぼんやりとだが、能力について考え続けていた。 そこでひとつの疑問が浮かんできた。能力を使って一日前に戻った場合、その時空間は元の時空間との整合性があるのか、という疑問だ。 平たくいえば、録画したビデオテープをみるように、人や物がまったく同じ動きをするのか、ということである。 もしも、まったく同じ一日になるとしたら、誰かや何かの動きを事前に察知することが可能になる。
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