21人が本棚に入れています
本棚に追加
―――
例のボタンを前に、俺は少々緊張していた。
時刻はすでに十二時前。タイムリープしたとすれば、俺は同じく昨日のこの部屋にいるはずだった。
はっきりいって動機はかなり不純だ。だが、タイムリープが本当であるかと確かめる目的に、多少の色がついたと思えばいいのだ。
さて、やるか――。
そう決意したときだ。
「陽平」
千里だった。
「どういうこと。掃除してくれてなかったじゃない」
声のあとに彼女が扉を開けた。
「掃除?」
ああ、たしか昨夜そんなこといってたな、と俺の記憶が蘇った。
「いいだろ。今日の俺は休みだったんだよ。家にいようが外に出てようが、休みは休みなんだ」
家にいるから暇人だ、などと思われたらたまらない。
「そんなことわかってるわ。たまにはやってくれてもいいでしょっていってんの」
「それじゃまるで自分はやってるみたいじゃないか」
千里の眉が恨めしく動いた。
「してるわよ。あたしはいつもしてる。汚すだけのひとは気がつかないかもしれないけど」
「うるさいな。いいじゃん、どうせ汚れるんだろ。いっしょだよ」
俺は千里から顔をそむけた。
彼女は何もいわない。ただ、突き刺さるような視線だけは感じる。
最初のコメントを投稿しよう!