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――― 例のボタンを前に、俺は少々緊張していた。 時刻はすでに十二時前。タイムリープしたとすれば、俺は同じく昨日のこの部屋にいるはずだった。 はっきりいって動機はかなり不純だ。だが、タイムリープが本当であるかと確かめる目的に、多少の色がついたと思えばいいのだ。 さて、やるか――。 そう決意したときだ。 「陽平」 千里だった。 「どういうこと。掃除してくれてなかったじゃない」 声のあとに彼女が扉を開けた。 「掃除?」 ああ、たしか昨夜そんなこといってたな、と俺の記憶が蘇った。 「いいだろ。今日の俺は休みだったんだよ。家にいようが外に出てようが、休みは休みなんだ」 家にいるから暇人だ、などと思われたらたまらない。 「そんなことわかってるわ。たまにはやってくれてもいいでしょっていってんの」 「それじゃまるで自分はやってるみたいじゃないか」 千里の眉が恨めしく動いた。 「してるわよ。あたしはいつもしてる。汚すだけのひとは気がつかないかもしれないけど」 「うるさいな。いいじゃん、どうせ汚れるんだろ。いっしょだよ」 俺は千里から顔をそむけた。 彼女は何もいわない。ただ、突き刺さるような視線だけは感じる。
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