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散らかった机の上からガラスの灰皿を引っ張り出し、マルボロに火を付けた。
ふうーっ、と息を吐き出したとき、壁の向こうから千里の声が聞こえた。
「陽平、いんの?」
けだるそうな声が、壁を挟んだせいで、こもった感じで俺の耳に届いた。
「いるよ」
少し大きな声を出して、俺は答えた。
「何か用かよ?」
言葉に刺を加えてしまうのは、いわば癖のようなものだ。
「別にぃ」
それ以来、千里の声は聞こえなくなった。
青木千里と同棲生活を始めたのは、もう半年以上も前のことだ。
彼女とは、会社の仲間がセッティングしたコンパで出会った。ありきたりな出会いである。
暦では秋を迎え、人肌が恋しくなる季節――昨年の十月のことだった。
とはいえ、そのコンパには参加するまではあまり乗り気でなかった。仕事が忙しく疲れていた、というこれもまたありきたりな理由だ。
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