21人が本棚に入れています
本棚に追加
ほぼ無意識の状態で吸っていた煙草の煙をもう一度吐き出したとき、俺は不意に「あのこと」を思い出した。
煙草を左手に持ち替えて、右手で背広のポケットを漁った。
右手はすぐに、例の物を探り当てた。
俺はゆっくりと、それをポケットから取り出してみた。
それは、黒い色をしたジッポライターのような代物だ。しかし、サイズはライターよりも少し大きめである。
そして、ジッポライターのように蓋の部分を開けると、その中には白いボタンがあるのだった。
艶やかな黒色が、怪しげな輝きを放っているようだった。
ただ、その反面俺の心は冷めている。
これで時間が元に戻せるって?まったく馬鹿げてるな――。
俺は小さく鼻で笑った。今になって思えば、なぜこんな胡散臭いものを受け取ってしまったのだろうと、ちょっとばかり可笑しくなった。
あの男の前で足を止めてしまったことでさえ不可解だ。
きっと、あのときはよほど疲れていたのだろうな、と俺は思った。
あのとき、といっても、それはほんの十五分ほど前の出来事だ。
最初のコメントを投稿しよう!