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――― 約十五分前――。時刻は夜十時を過ぎたところだった。 俺は自宅までの暗い夜道を歩いていた。 勤務先までは電車を使っている。満員電車で三十分程揺られた位置に、俺の勤める会社の営業所があるのだ。 なぜ、その営業所から離れた場所にアパートを借りたかというと、単純に都心の物件の家賃を払い切る自信がなかったからだった。 ない袖は振れない、というヤツだ。 手頃な物件を探り当てるまで、俺は仕方なく徐々に範囲を広めていったのだった。 代わりにこの辺りは田舎だ。だから街頭も少ない。 女性がひとりで歩くには危険な道ともいえるが、幸いなことに千里は自動車を所有しているから、心配させられたことはない。 ともかくそんな道を、俺はぐったりとした足取りで歩いていた。 表情からは、疲れの色が滲み出ていただろう。 今日は、本当に最悪の一日だった。 取引先であった大病院との話し合いがうまくいかず、結局契約が打ち切りとなったのだ。 これまで納めていた機器を更新したいという理由で、新しいモデルの機器を提案していたのだが、結局は価格競争に破れてしまったという形だ。
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