夏の雨、のち

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「やっぱお前傘持たないで行ってたか。びしょ濡れじゃねえか」  言いながら矢嶋の手から買い物袋をひとつ奪い、風邪引くから早く行くぞと矢嶋の背中に手を置いた。 「か……傘もってたって、両手に買い物袋で、傘なんてさせなかった」  矢嶋の言葉に振り返った水城は、俯いている矢嶋の顔を覗き込むように顔を近づけた。 「そっか、ゴメンな。俺が一緒に行かなかったから悪かった」  謝罪の言葉を口にしながら濡れた髪を梳くように撫でられ、矢嶋は唇をかみ締めた。なんだかもう全部、水城のせいにしたかった。  買い物しすぎた事も、雨に濡れた事も、エコバッグを忘れた事も、氷川に送ってもらった事も、氷川にキスをされた事も。 「一緒に行くっていってたのに、ドラマなんか優先して」 「悪かった悪かった。夕飯は俺が作るから許せよ、な、ごめんて」  眉間にぎゅっとしわを寄せて唇をかみしめる矢嶋をなだめながらエレベーターに乗せた水城は、エレベーターが動き出すと矢嶋の目線まで屈みこみ、ちゅうと矢嶋の唇を吸った。  先程のキスを上書きされたようで、そう考えたら矢嶋の心臓はバクバクと音を立てはじめ、それを隠すように更に唇をかみ締めた。 「どうした矢嶋、今日は一段と拗ねるな……許してくれねぇの」  困ったような表情を浮かべる水城を横目で流し見たあと、もういいよと呟いた。それよりも、それよりも。  俺は明日どんな顔をして氷川と顔をあわせたらいいんだろうかと、考えたら脳みそが沸騰しかけ、家の玄関を開けた頃にとりあえず考える事をやめた。  水城に見られなかったことがせめてもの救いだったと思ってしまった狡い自分に苛立ち、頭から冷水シャワーを浴びすぎて翌日風邪をひいてしまった。 <つづく>
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