夏休み

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 向かった先はあの日と同じ、三内丸山遺跡。  バスに揺られ、入り口まできて思わず頬が緩む。  歴史も遺跡もまるで興味なかったはずの矢嶋が、兎みたいにまんまるな目をキラキラさせながら俺より興奮する姿がおかしくて、お前そんなに面白いのかと聞いた事を思い出した。 『だって俺、全部初めてだ』  そうかと流せば、俺の腕を掴み、ちっこい矢嶋が聞けよと俺を振り向かせた。 『初めてを水城と一緒にいるって、すごい』  嬉しそうに笑う矢嶋を見ながら、こいつって変わってんなあと思ったものだった。  目に付くもの全てを吸収するように、ガイドさんの言葉に頷く横顔を見て、俺はなんだか嬉しかった。  ひとり旅はひとり旅じゃなくなってしまったけれど、矢嶋との旅はきっとそれよりもずっとずっと、楽しかったんだ。  園内を全て回ってみたけど、矢嶋の姿は見つからなかった。  明らかに気落ちしている自分に苛つきながら出口へと向かった時、視界に人影が入った。  顔を上げその人物じっと見つめると、ふと昔の記憶が蘇る。  矢嶋と俺を案内してくれた、ガイドさんだ。  向こうがこっちを覚えているとは思えないが、意識よりも先に足が向いていた。 「あの、すみません」  声をかけると五十代位だろうか、柔和な笑顔で振り返ってくれた。  俺は携帯に保存してある写真の中から比較的大きく矢嶋が写っている一枚を選び、その人に見てくれと携帯を差し出した。 「友達を探していて……こいつ、ここに来ませんでしたか」  ガイドさんは目を凝らして画面を見つめた後、ああ、と声を上げた。 「うん、今から二時間位前かな、一人で歩いていたから声をかけたんだ。この子だった」  喧嘩でもしたのかいと笑顔で携帯を返され、俺は黙って受け取った。 「これから睡蓮沼へ行くなんていうから、遅くなるから明日にした方が良いと言ったんだけど」 「ありがとうございます!」  ガイドさんの言葉を聞き終えるよりも先に、俺は走り出していた。
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