911人が本棚に入れています
本棚に追加
バスを乗り継ぎ、睡蓮沼へと辿り着いた時にはすっかり夕暮れで、バス停の時刻表を確認すると三十分後に来るバスが最終となっていた。
階段を上がり視界が開けて、俺はぐるりと辺りを見回した。
人影のない、小さな沼地。
あの日と同じように、穏やかな沼は鏡のように八甲田山をその身に映していた。
虫の声に、葉の擦れ合う音。
夕焼け色に染まったトンボが、空を自由に飛んでいる風景。
あの時と同じ。
そして、古ぼけたベンチに横たわる人影を見つけた。
「矢嶋……」
矢嶋が、居た。
最初のコメントを投稿しよう!