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矢嶋の部屋へ移動し、PCを立ち上げて履歴を見れば観光検索がずらりと並ぶ。
(おいおい、本当にただの観光旅行か?)
青森、山梨、名古屋、静岡、京都……また青森。
「こんな所でも決められない性格が見えだな、アイツ」
検索情報をしばらく眺め、ふと気付く。
方角バラバラな地名の、共通点。
「矢嶋……」
その時携帯に着信が入り、表示をみれば青木の名前。
「今忙しい」
『うわ出るなり凄い拒絶! せめてモシモシとか』
「用件は」
『あー、うん、お節介かなあとも思ったんだけどさ、ちょっと気になって』
「なにが」
『矢嶋、この間変なこといってたんだよね』
「なんて」
『昔はよかったとか。 おっさんかよって笑ったんだけど』
昔は。
今は?
「……それで」
『それだけ。 だから気にしてなかったんだけど、ほらさっき、二人が喧嘩してるふうだったからさあ、それにその後バイト辞めちゃったしさ。ちょっと気になっただけ。水城に苛められちゃったんじゃないかとかさーあはは』
「お節介どうも。じゃ切るぞ」
『あー待って待ってみずきー』
「んだよ」
『矢嶋辞めても、二人でお店に遊びにきてね』
寂しいじゃんと笑う青木。
「お前の奢りなら行くよ。じゃな」
電話を切り、再び画面に目を向けた。
お節介もたまには役立つ事を言う。
旅に出るには余りにも身軽な格好のまま、俺は部屋を飛び出した。
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