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◇◇◇◇
新幹線が走るターミナル駅は通勤ラッシュを過ぎ、混雑も緩和していた。
青森行きのチケットを購入し、乗り換え口へと歩き始めた時、ふと耳に入った声に思わず振り返る。
「待ってよー」
少し前を歩く仲間達の後を必死で追いかけるちっこい学生と、それに気付いた仲間達が遅せぇよ早く来いと言いながら足を止める姿が目に映り、なんだか懐かしさがこみ上げ、ほんの少し頬が緩んだ。
(矢嶋みてぇなガキんちょだな)
これからどこか試合へ向かうのだろうか、大きなスポーツバッグを肩にかけた学生達は笑いながら歩き去っていった。
その後ろ姿をなんとなく見送った後、再び乗り換え口へと身体を向ける。
矢嶋の居場所は、俺の中で固まっていた。
きっとあいつは、あそこへ向かったに違いない。
でも違っていたら?
無駄足か。
(……そしたらそしたで、どうってことない)
今は動く事が正解だと、俺の中の俺が答えた。
矢嶋とのシェア生活は、それなりに上手くいってたと思う。
出会いは高二の始め。
前後の席になってから、地味でちっこい矢嶋の存在を知った。
でもそれだけだった。
どっからみても共通点皆無だなと、口を聞く機会も殆どないまま春が過ぎた。
大人しい矢嶋を毎日のようにからかう連中とされるがままの矢嶋が目に入る度に苛つきながらも、関わるのは面倒だと傍観していた俺が、ブチ切れたのは夏の始めの事。
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