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あの日はいつもより少し酔っていたのかもしれない。
『お帰りー。なんか食べる?』
深夜に酔っ払って帰宅した俺を、矢嶋は呆れながらも笑顔で迎えてくれた。
『いらね』
『結構酔ってる? お水飲んだら』
下から俺の顔を覗き込む矢嶋を改めて見下ろせば、まだ乾ききっていない髪からシャンプーの香りが漂い、白い肌はほんのり紅く蒸気していた。
『風呂、栓抜いた?』
『まだ。でも風呂に入るなら少し酔いを冷ましてからじゃなきゃ』
『……面倒臭い……』
グラリと壁によろめいた俺の身体を矢嶋の両手が掴む。
『寝るなら寝室まで自分で歩いてよ。全く、ああもう目ぇ瞑るなってば!』
喚く声を煩いと思いながら渋々瞼を持ち上げると、ぷっくりと膨らんだピンク色の唇が目に入り、それがどうにもうまそうに見えた俺は、そのままパクリと噛み付いてしまった。
その直後、ギャアと叫んだ矢嶋は後ずさり、そのままステンとひっくりかえった。
『な、な、な、な』
『んだよ』
『なな、なにすんだよ!』
『なんか美味そうだったから』
『アホか!』
尻餅をついたまま起き上がれないでいる矢嶋の前にしゃがみこみ、正面から覗き込めば、湯でタコみたいに真っ赤になった矢嶋が妙におかしくて、ウズウズとからかいたくなってしまった俺。
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