1534人が本棚に入れています
本棚に追加
買って来たショコラタルトを並べてくれていたテーブルへと座る。
「さ、食べましょう」
「ありがとうございます」
母親の和かな声でこの部屋の圧迫感は和らいでいるものの。
父親は中々俺と目を合わせてはくれていない。
大切な娘を思う気持ちがひしひしと伝わって来るからこそ、申し訳なさも込み上げてくる。
これが芝居だと知ったら…
どれ程怒る事だろう。
「俺はどうやら見る目がないらしいからな。川岸だってそうだ。里沙に良いと思ったから会わせてやったのに…断りおってからに」
面白くなさそうな顔をして紅茶を啜る。
「良かったじゃないですか。川岸さんにもきっと相手がいらしたんですよ」
「私の幸せを願うなら、私の気持ちも考慮して欲しいんですけどね、お父さん」
「んんっ、紅茶が上手いな」
態とらしく咳払いをし、カップを手にしている。
何だかその光景が微笑ましくて。口元が緩んだ。
「…何を笑ってるんだ」
そんな俺に気付いた父親が睨んで来た。初めて目が合う。
「いえ、ご家族が仲良くて羨ましく思いまして。私もこんなあたたかい家庭を築けたらと思っておりました」
最初のコメントを投稿しよう!