進行

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買って来たショコラタルトを並べてくれていたテーブルへと座る。 「さ、食べましょう」 「ありがとうございます」 母親の和かな声でこの部屋の圧迫感は和らいでいるものの。 父親は中々俺と目を合わせてはくれていない。 大切な娘を思う気持ちがひしひしと伝わって来るからこそ、申し訳なさも込み上げてくる。 これが芝居だと知ったら… どれ程怒る事だろう。 「俺はどうやら見る目がないらしいからな。川岸だってそうだ。里沙に良いと思ったから会わせてやったのに…断りおってからに」 面白くなさそうな顔をして紅茶を啜る。 「良かったじゃないですか。川岸さんにもきっと相手がいらしたんですよ」 「私の幸せを願うなら、私の気持ちも考慮して欲しいんですけどね、お父さん」 「んんっ、紅茶が上手いな」 態とらしく咳払いをし、カップを手にしている。 何だかその光景が微笑ましくて。口元が緩んだ。 「…何を笑ってるんだ」 そんな俺に気付いた父親が睨んで来た。初めて目が合う。 「いえ、ご家族が仲良くて羨ましく思いまして。私もこんなあたたかい家庭を築けたらと思っておりました」
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