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扉を開けて中へと行くと、既に両親の姿は無かった。
席には先程つまらなさそうに座っていた少女、紫(ゆかり)が居るだけで。
「申し訳ありません。遅くなりました」
俺が声を掛けると、漸く顔を上げた。
「…いえ、大丈夫ですので」
何の抑揚もなく答える少女に、内心ホッとする。
「ご両親はどちらへ?」
「先程帰りました。山中さんへどうぞ宜しくお伝え下さいと言っておりました」
まるで事務的の様に話す紫は何処か冷めた印象がする。
「そうですか。ではそろそろ私達も帰り…」
「良い返事が頂けるまで帰ってくるなと言われましたので。帰るという事は良い返事を頂けたと受け取っても宜しいのでしょうか?」
「………」
思わず絶句。
紫は無理矢理連れて来られたのではない…のか?
それ故につまらなさそうにしていたのだとばかり思っていた。
それとも、単に興味のないフリをしていただけなのか…
紫の目の前に座り、一呼吸してから目を合わせた。
「紫さん、無理矢理見合いをさせられたのではないのですか?」
先程から淡々と話す紫の様子からして、回りくどい言い方よりも単刀直入の方が良いだろうと判断して。
目の前の紫を真っ直ぐに見やる。
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