Epilogu

3/5
前へ
/39ページ
次へ
 数日前から漸く眠ることに慣れ、時間も随分と伸びてきた。  それは今自分が幸せだと思える、一つの変化だ。  彼は滑らかな身のこなしで壁に縋り付き、頬を上気させる。  “壁”というより、  正確には、壁全面に隙間無くびっしりと貼られた――少女なのか美少年なのか良く判らない人物の写真に――だ。  「ヒル……今日も可愛いよ、好き……愛してる、愛してるよ」  彼は一番大きく引き伸ばした“写真”へ愛を語るのに夢中で、咥内に溜まった唾を飲み込むことも忘れていた。  口の端からだらだらと涎が垂れている。  満足いくまで自分の身体を写真に擦り付けた後、彼は上機嫌でベッドを下りる。  日課になっていた、写真の貼替え作業を行う為だ。  その日目覚めた時の気分により、写真を貼る位置を毎日変えているのだ。  とても楽しくて、有意義な時間である。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

110人が本棚に入れています
本棚に追加