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心臓の鼓動が聞こえる。
少し早く感じるのはきっと気のせいじゃない。
だから、腕を恭の背中に回して――
「恭……」
名前を呼ぶと抱きしめてくれる腕にさらに力がこめられた。
だけど、
「泣いてるの?」
背中に回した手が小さな震えを感じたから、恭の腕に逆らうように顔だけを上げる。
「泣いてるのは、シオでしょ」
サラサラな髪は照明に照らされてオレンジ色に。
その奥にある瞳はまるでインペリアルトパーズのよう。
そして、その顔は今にも泣いてしまいそうで――。
「泣かないで、恭」
涙で濡れた顔のままふにゃりと笑う。
「大好き。今までもこれからも、ずっと大好きだから」
その台詞に恭の瞳が細められる。
だけど、その表情は
とても哀しそうで苦しそうで――
だから、恭の背中に回した手にギュッと力を入れて、
もう一度、キスをした。
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