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ゆっくり離れていく唇。
間近に見える恭の唇が、僅かに震えて、
「……シオ」
小さく空気を振動させる。
滲んだ視線で恭の瞳を見れば、
切なそうに細められて――、
「あたしは恭が好き、恭は?」
欲しい言葉はたった一つ。
なのに――
「違うよ、シオ……」
恭は小さく頭を振った。
「それは勘違いだ。ずっと俺がそばにいるからそう思ってるだけで、それは妹が兄に抱く愛情だよ」
「――違うっ! 違う違う違うっ」
詩織は激しく頭を振って、そのまま頭を恭の胸に預ける。
「この『好き』はパパや鈴花さんに感じる『好き』とは違うもの!」
そう言って恭のシャツを両手で掴んだまま詩織は恭を見上げた。
「恭は?」
お願いだから――
「あたしのこと……」
好き?
そう聞こうとしたら、
「――あっ」
恭の腕が身体に回されて強く抱きしめる。
詩織の顔は恭の胸に埋められて――
「好きだよ、シオ」
そう言った恭の顔は見えなかった。
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