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だから詩織はグッと唇を噛んで、目の前にあるオレンジジュースに手を伸ばす。
ストローは放り投げて一気に飲み干して。
ダンッと乱暴にテーブルに置くとグイッと左の手の甲で口元を拭った。
「分かった」
本当は分かってない。
だけど、こう言わないとどこにも行けないから。
「ちゃんと、今から兄妹に戻る」
そうしないと恭がどこかに行ってしまいそうから。
「でも、忘れない」
忘れられるはずが無い。
「だから、恭も忘れないで」
お願いだから。
無かったことにしないで――。
泣きそうな顔をしながらそう口にする詩織に、恭は寂しそうな、それでいて困ったように顔を歪めた。
「シオ――」
「約束だよ?」
いつか、きっと……。
そんな未来があるのか分からないけど。
その日のために。
だから詩織は、
笑った。
そんな詩織に恭も、
いつもの笑顔をみせた。
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