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少し前を恭が歩く。
詩織が見つめるのは恭の手。
触れたいけど、なんだか恥ずかしくて、
だけどギュッと握って欲しいのに、恭は振り向いてくれない。
今までよりずっと近くなったはずなのに――。
「シオ」
「えっ?」
顔を上げると恭は振り返って向かい合わせの二人。
「エレベーター乗らないの?」
「あ」
だから急いでエレベーターに飛び乗って。
「……」
エレベーターは無言のままの空間はふたりをラウンジへ運んだ。
静かな空間に電子音が最上階の到着を告げる。
そして開かれるドア。
「――っ」
溢れんばかりに入り込む太陽の日差しに詩織は目を細め手をかざす。
「お待ちしておりました、大河内様」
目の前には恭(うやうや)しく頭を下げる店員。
「どうぞ、こちらへ」
彼に案内されるままラウンジを進み、街を見渡せる窓際の席へ。
革張りのソファに腰を下ろす。
柔らかくも硬くも無い、心地よいスプリング。
そして出されるのは、
フルーティーな香り豊かな紅茶、
香ばしいバターの香りが食欲をそそるクロワッサン、
ふわふわトロトロなプレーンオムレツに、
彩り綺麗な旬の野菜サラダ。
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