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「――いっ、嫌よっ! そんなのっ!!」
「シオ」
嗜めるような恭の声。
その視線は周りの客を伺うようなもので……。
同じように辺りを見渡すと、詩織の声に反応して何事かと集められる視線。
それにハッとして俯いて、膝の上で両手をギュッと握った。
恭は、ズルイ――。
ここなら喚くことも泣くことも出来ないことを知ってるから『ラウンジ』での朝食を選んだ。
「シオ、分かって。俺たちは兄妹(きょうだい)なんだよ」
知ってる。
そんなのずっと知ってた。
「これは、どうしようもないんだ」
そうかもしれないけどっ
「だから、忘れて」
それこそ――、
「……無理だよ」
辛うじて叫びそうなる声を押さえて、絞り出すように言葉を紡ぐ。
なのに恭は小さく息を吐いて瞳を伏せた。
「なら、家では極力会わないようにしよう。休みの間は俺も忙しい、それに年が明ければ俺は学校にほとんど行かなくていいから――」
「――い、嫌っ!!」
少し腰を浮かせて、そう叫ぶ詩織に「シオ」といつもの声で恭は呼ぶ。
「落ち着いて」
こんなの落ち着けるわけがない。
なのに恭はテーブルに置かれたブラックのコーヒーを口に運んでコクリと喉を潤す。
カチャリとカップはソーサーの上に置かれ、恭の綺麗な瞳が寂しげに見つめた。
「ねぇ、シオ」
呼ばれる声に身構えてしまう。
「心配、かけたくないでしょう?」
パパや鈴花さんに――。
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