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 たとえば1分間。  目を閉じて、ストップウォッチで計測したとする。普通はだいたい誤差は5秒くらいだろうか。  私の場合、計測結果はひどいものになる。  平均して20秒の誤差。それも最近ではもっと広がっている。 『不思議の国のアリス症候群』  それがこの病気の名前である。  自分の体が大きくなって周囲が小人の世界のように感じたり、逆に周囲が巨大化して自分が小さくなったように感じたりする。  まるで白兎に誘われて不思議な世界に迷いこんだ少女のように。  実際に自分の体や周囲が変化しているわけではない。ただそのように感じるだけで、なんの変化もしていないのだが。  私の場合は『時間』である。1秒が引き延ばされたように、全てがゆっくり感じる。自分の感覚が速くなっているともいう。  ホルモンバランスだとかストレス性なんとかと小難しいことはよく理解できないが、とにかく不安定になるとひどくなってしまうらしい。  ドッ……クン。  今はどれくらいになっているのだろう。彼女の唇がゆっくりと動き、オペラ歌手以上のロングブレスで言葉がもれる。  私はそれを、逃げだしたい気分できいた。
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