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少年は牢番に鍵を開けさせた。
警備兵が言う様に、抵抗をする兆しはない。
地下牢から出れば、その明るさに目を細めた。
日の光を受け、黒だと思ったその髪は少し紫掛かっている事が解った。
服装も軽装ではあるが、旅人と言う風貌だ。
首に付けた黒いチョーカーが目に入った。
小ぶりの水晶がはめられているようだ。
「思い出せずとも、聞きたい事がある。ついてこい」
そう言えば、ただ頷くだけだ。
黙って付いてくるところ見ると、本当に抵抗するつもりはないようだ。
抵抗したところで、少女を助けるものなど居ないだろう。
少女の目的疑わしいものではない事が解れば、少女は解放されるだろう。
なのに、何故がその少女に魅かれる。
何に?と問われれば、言葉に表すことは出来ない。
少女が連れてこられた場所は、食堂の様な場所だった。
少女は適当に椅子に座った。
少年は少女から近い窓側に背を預けた。
少年は少女からいくつかの質問をした。
勿論覚えていることは少ない所為なのか、応えられたのはほんの少しだ。
少年は嘘をついているがどうかを横目で見ながら、質問した。
答えなどどうでも良かった。
少女も自分がこれからどうなるのかすら、興味を持っていないようだ。
「最後だ。自分の名前は覚えてないのか?」
「何度も言う様ですが、思い出してたら伝えています」
溜息といっしょに吐き捨てるように言った。
本当に困ったような表情をして、小さく呟いた。
少年は聞き返した。
少女は自信なさげに苦笑した。
「ほんの少しだけ、『クラウディス』って言う言葉が浮かんだの。でも、何の事だか解らないわ」
「…『クラウディス』?……何一つ覚えていないと言うのは、嘘ではないようだな」
「初めから言ってるじゃない。まあ、疑わしい登場の仕方をしていたらしいから、文句を言えた義理じゃないわね」
「解っているようだな。なら、もうしばらくあの地下牢に居て貰う。すぐに出れるとは思うがな」
「構わないわ。どうせ行くところなんかないもの」
少女は小さく笑った。
その表情が何故か、心に沁みつくように残った。
近くにいた者を呼び、少女を地下牢へと向かわせた。
少女は少年に軽く手を振り、振り返ることもなかった。
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