はじまりの記憶

3/14

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
少年は牢番に鍵を開けさせた。 警備兵が言う様に、抵抗をする兆しはない。 地下牢から出れば、その明るさに目を細めた。 日の光を受け、黒だと思ったその髪は少し紫掛かっている事が解った。 服装も軽装ではあるが、旅人と言う風貌だ。 首に付けた黒いチョーカーが目に入った。 小ぶりの水晶がはめられているようだ。 「思い出せずとも、聞きたい事がある。ついてこい」 そう言えば、ただ頷くだけだ。 黙って付いてくるところ見ると、本当に抵抗するつもりはないようだ。 抵抗したところで、少女を助けるものなど居ないだろう。 少女の目的疑わしいものではない事が解れば、少女は解放されるだろう。 なのに、何故がその少女に魅かれる。 何に?と問われれば、言葉に表すことは出来ない。  少女が連れてこられた場所は、食堂の様な場所だった。 少女は適当に椅子に座った。 少年は少女から近い窓側に背を預けた。 少年は少女からいくつかの質問をした。 勿論覚えていることは少ない所為なのか、応えられたのはほんの少しだ。 少年は嘘をついているがどうかを横目で見ながら、質問した。 答えなどどうでも良かった。 少女も自分がこれからどうなるのかすら、興味を持っていないようだ。 「最後だ。自分の名前は覚えてないのか?」 「何度も言う様ですが、思い出してたら伝えています」 溜息といっしょに吐き捨てるように言った。 本当に困ったような表情をして、小さく呟いた。 少年は聞き返した。 少女は自信なさげに苦笑した。 「ほんの少しだけ、『クラウディス』って言う言葉が浮かんだの。でも、何の事だか解らないわ」 「…『クラウディス』?……何一つ覚えていないと言うのは、嘘ではないようだな」 「初めから言ってるじゃない。まあ、疑わしい登場の仕方をしていたらしいから、文句を言えた義理じゃないわね」 「解っているようだな。なら、もうしばらくあの地下牢に居て貰う。すぐに出れるとは思うがな」 「構わないわ。どうせ行くところなんかないもの」 少女は小さく笑った。 その表情が何故か、心に沁みつくように残った。 近くにいた者を呼び、少女を地下牢へと向かわせた。 少女は少年に軽く手を振り、振り返ることもなかった。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加