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少女は牢屋の上の方から漏れる僅かな光を見つめていた。
ただ見つめるだけで良かった。
光を見つめながら思い浮かぶのは、先程まで言葉を交わしていた少年の事だった。
自分の事は何一つ思い出せないのに、なぜか少年に魅かれた。
少年が問うてきた事に嘘をつきたくない、と思ってしまった。
もしかしたら答弁次第では、生が断たれてしまうと言うのにだ。
それが少年から下されたとしても、それでもいいと思っている自分が居た。
「馬鹿、らしい」
ぼそりと呟いた。
この地下牢には自分以外誰もいない事は、先程少年から聞いた。
応えてくれるとは思っても居なかったが、それが嬉しいと思った。
酷く疲れたのか、光を見ながら瞼を閉じた。
すぐに意識が沈んでいくのが解った。
***
少年は上からの指令に眉をひそめた。
少女が持っていた武器は、確かにその少女には不似合いなものだった。
だが、剣自体が少女以外に使われていることを拒むように、自分で結界を張った。
それ自体に驚いたが、ただの剣ではない事を知らされるとさらに驚いた。
もっと驚いたのは、その剣の所有者でもある少女を剣ごと抱えてしまおうと言った事だ。
少年は上の決定に意見する気はないが、使えないものを抱えることを危惧していた。
「お帰りなさい、坊ちゃん」
「アイツはどうした?」
「まだ眠っておいでです」
「……そうか。起きたら、着替えさせ、此処に連れて来てくれ」
「はい、畏まりました」
此処、とは少年の部屋だった。
すぐ解き放ちになるだろうと思ったが、簡単にはいかなかった。
力ある者には到底見えない。
だが、上の者はそうは取らなかった。
いづれ力を付けてしまったら、害を及びかねないと懸念しているようだった。
女なのだから力を付けても雑作もないだろう。
一人毒気付く。
「坊ちゃん、連れて来ましたよ」
「嗚呼。入れ」
入ってきた少女は少しむくれ顔だった。
どうしたのかと問えば、牢屋で寝たと思ったのが部屋がいきなり変わって戸惑っているだけだ、と答えた。
もっと別の事だと思っていた所為か、何とも抜けた答えに思わす笑った。
少女はそれを見て更に『笑いごとではない』と口を尖らせた。
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