はじまりの記憶

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 少年は布にくるまれた少女の剣を返した。 そしてさっき上から聞いたことを少女へと伝えた。 少女は呆然とそれを聞いていた。 言い終ると、少女が首を振った。 「どうやら、貴方の上は私が外敵になるかもしれないと思っているようね」 「嗚呼。不本意だろうがな」 「だったら、それを返さなきゃ良いのに……そうしたら、力を付けても、ただそれだけなのに」 これには流石の少年も答えることは出来なかった。 確かに少女が言うように、力ある武器を少女に返さず、似せたものを返せば良かったはずだ。 記憶がないと言うのだから、変わったところで何も感じないはずだ。 「それと、お前が言ったクラウディスとか言うのは、きっとお前の姓だろう」 「……姓、じゃないとは思う…気がする……」 少年から視線をそらせた。 何故だか少女の言うように、自分もそう思った。 不思議な奴だ、としかその時は思わなかった。 「それで。名が無いと不便だろうからな、一応付けてやる」 「……別にいらないわよ。名前なんて、記号の様なものじゃない」 「……素直に受けとけ。あと後面倒になるぞ」 少女は黙った。 面倒事に巻き込まれるのは嫌なようだ。 目についたベッドへ腰を掛けた。 少年は眉をひそめたが、咎めることはしなかった。 「……リオ…リオ・クラウディス」 「リオ・クラウディス?」 「お前の名前だ!」 「……嗚呼、成る程。ところで、貴方を何て呼べばいいの?」 少女…リオは座っていたベッドに身体を横にしながら聞いた。 少年は溜息をつきながら、リオの方を向いた。 黒髪が綺麗だなぁ、と全く違う事を考えていた。 「リオン。リオン・マグナスだ」 リオは嬉しそうな顔をして、瞳を閉じた。 声には出ていないが、小さく唇が『リオン』と動いた。 そのままリオは眠りについてしまったようで、規則正しい寝息が聞こえて来た。 リオンは深い溜息を吐き出した。 さんざん眠ったのではないのか、と横目で少女を睨んだ。 寝入ったリオ横目に、リオンは机に向かった。 剣を振るばかりが仕事では無い。 人が居るのに、何故か穏やかな気持ちになっていた。
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