はじまりの記憶

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 リオの剣の腕はメキメキと上がっていった。 軽業師の様な動きをする為、普通の剣士とは全く違う動きを見せる。 身軽な身体能力は生まれ持ったものだろう。 初めはリオンに負かされていたのだが、今は良くて引き分けに持ち込めるようになった。 それも夜人目を避け、屋敷を抜け城下を抜け、魔物が出る場所で一人修行していた所為もあるだろう。 今となっては、リオンの直属の部下として届けを出している。 その所為か彼の使いぱしりの様なこと度々している。 それさえ何一つ文句は言わない。 「リオ」 リオは手にして居たリンゴを口に運びながら、彼の傍へと行く。 肩より少し下だった黒髪は、背中より少し下まで伸びた。 サイドの髪を三つ編みにし、後ろで一つに束ねている。 澄んだ翡翠の瞳は、今も変わりなく真っ直ぐ彼を捉える。 右耳には彼と同じピアスを付けている。 彼は左耳に付けている。 「ハーメンツ村近くの神殿に賊が入ったらしい」 「賊討伐、ですか。無事の御帰還を一応祈っておきます」 「お前を連れて行け、と上からのお達しだ」 身を翻して去ろうとしているリオに、リオンは少し声を大きくして言った。 リオは不機嫌な表情をしながら振り返った。 彼の不敵な笑みにリオは噛み付きたくなった。 噛み付いたところでどうにもならないから、実行に移すことはない。 「昨日、遠征から帰って来たばかりです」 「仕方があるまい。他の奴どもが使えないんだ」 「1,2日くらい休暇を貰ったばかりなのですが」 「賊討伐を早く終わらせればいい話だろう。今回は飛行竜が使えるんだ。道中は休息できるぞ」 今度こそリオは黙った。 行くことはもう決定事項だと言う事は重々承知している。 ただ駄々を捏ねたかっただけなのだ。 遠征から帰って来たのは昨日なのは事実で、休暇を1,2日貰った事も事実だ。 大事な休暇を潰されるのは、リオンもリオも嫌だった。 「ようは、サッサと出掛けて、ちゃっちゃっと潰してくればいい訳ね」 「そう言うことだ。準備出来次第行くぞ」 彼は屋敷の方へと歩き出した。 リオは先程まで居た樹木を見上げた。 荷物という荷物は、あの剣しかない。 腰袋の中にあるのは、非常食以外入っていない。 そのほかは邪魔だと言って持ち歩いていないのだ。
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