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リオは飛行竜の甲板にいた。
冷たく強い風が滑る中、雲を見つめていた。
部屋の中に居た方が暖かいのだが、そんな気分にはなれなかった。
部屋に居れば、耳に入れなくても良いうわさ話が届く。
甲板に出て居れば、冷たく強い風が耳を塞ぐ。
紛らわしさから少しでも離れていたかった。
人の居るところが嫌いな訳ではない。
なりたくてなった訳ではない。
欲しくて手に入れた地位でも無い。
気付いたら手に入れて居た地位で、気付いたらそうなっていただけ。
誰かにとやかく言われる筋合いなど、何処にもなかった。
「此処まま、消えてしまったら楽なのにね」
風にかき消えた声。
誰かに聞いて欲しいと願った訳でも無い。
遠くまで来た訳でもないのに、何処か遠くへ来たようだ。
今まで使って来た自分の剣を、改めて手に取ってみる。
レイピアよりまだ細く真っ直ぐなそれは細剣の一種なのだろう。
柄に付いているレンズの様なものに細かい傷が付いているが、それがまた良い味を出している。
剣には詳しくはないが、リオンが持っている武器より細身だったはずだ。
「年代物だ、って彼は言っていたっけ……しかも千年前だって特定する眼力には驚いたけれど」
小さく苦笑した。
この剣を使うようになってからなのか、それとも失くした記憶がそうさせるのか、どちらにしても頭痛が時々リオを襲った。
リオの頭痛は不定期だったが、戦闘中に来ることは一度もなかった。
それは単に戦う事に集中しているからでは、とも考えた事がある。
けれどそれは違った。
書物を読んでいる時はたいてい集中しているのだが、そんなときでも頭痛はあった。
頭痛自体が空気を読んでいるとも思えない。
だが、実際にそうなのだから仕方がない。
「リオ様、もうじき目的に到着いたします」
「………リオン様は?」
「自室で準備をなさっておいでです」
「…………今回は船酔いをしなかったか」
「はい?」
「いや、こっちの話だ。すぐ準備します。報告感謝いたします」
上辺だけでも見繕っておけ、と言う彼の言う通りそうした。
本当に此処にいる人たちはあまり信用出来ない。
信用して信頼して、裏返された時が少しだけ怖かった。
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