はじまりの記憶

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 船酔いをしていないと思って居たのだが、案の定船酔いしていた。 そんな彼をからかってから、一人先に行った。 先行することは前々からしている為か、誰も咎めない。 彼にならって外套を纏っているが、風でヒラヒラ舞うそれがうっとおしい。 外套を止める金具は彼と同じ所で注文したが、片方だけ三日月を模ったものにしている。 外套も彼と違う黒を選んだ。 それに合わせるように、服装も黒を選んで着るようになった。 彼の様に王城へはあまり顔を出さない事もあり、服装はそこまで厳しくはなかった。 多少露出はあっても、それを覆うように外套が露出部分を上手く隠している。 「それにしても。神殿に入って泥棒するって…管理が行き届いてない証拠でしょう。わざわざリオンが出向かなくたっていいでしょうに」 一人零した呟きは、誰に拾われることはなかった。 そのため思いっきり羽根を伸ばすような心地だった。 もっとも先行して偵察をする程、手ごわい相手でも無いだろう。 ただ、警備兵が弱いだけだ。 そう彼に耳打ちした。 彼もそれには同意したが、他の事もあると彼は告げた。 他の事とは何かとは聞かなかった。 聞いたところで何か解るでもなく、自分に対して関係はないと踏んだからだ。 関係ない事に首を突っ込めるほど、リオは人が出来ていない。 他人の事には本当に無関心だった。 自分に記憶が無い事が一番の要因だったのかもしれない。 影で何を言われようが、耳を傾けるほど神経質でも無い。 「なんか、嫌な予感がする」 何か大きなものに巻き込まれそうな、そんなふとした予感だった。 外れて欲しいと願う一方、退屈だった日々の終わりを待ちわびるような感覚にもなった。  平坦な道をただ歩いて行けば、目的の村が見えた。 朝日が当たりを照らすよう、少しずつ高くなっていく。 と言ってもそろそろお昼の支度を始める頃だろうか。 それとも朝の片づけを始める頃だろうか。 どちらにしてもこれからすることを考えれば、大した問題ではない。 賊たちが居ると思われる宿屋の位置と、村の出入口を頭の中に覚えさせる。 小さな村だからか、そんなに難しい事ではない。 宿屋の主人に昨日泊まった客の事を聞き、外へ出る。 村の遠くから近付く集団が見えた。 彼が間もなく到着する頃らしい。 彼女は小さく笑った。
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