はじまりの記憶

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 彼はまだ船酔いが取れ居て居ないのか、不機嫌そうな表情をしていた。 それを横目で苦笑しながら、護衛について来た衛兵に指示を出す。 衛兵からすればリオは上司になるのだろうが、新参者に指示を受けるのは嫌だろうと、余り口うるさいことは言わなかった。 衛兵だけで事が済むくらいなら、彼に捕縛命令が下らなかっただろう。 しかも辺境の場所への賊の捕縛くらい、その辺の上等兵でも良い筈だ。 そう考えていると、彼からの視線を感じた。 「不満そうだな」 「かなり。でも、宿屋の主人が言うには、女2人に男が1人だって言うらしいじゃない。辺境な場所でつわものが居るのかしら?」 「居るから呼ばれたんじゃないのか?」 リオは首を振った。 居たとしてもそれは、そこにいる者たちが弱いからにすぎない。 もう彼女の頭には早く休暇にする事だけを考えていた。 「リオ。奴らが手間取るようなら、手を貸してやれ」 「えぇー…僕、衛兵ごとやっちゃうかもよ?」 「フン。くだらないことを言ってないで、さっさといって来い」 「へーい」 肩から溜息を一つ付いた。 宿屋を取り囲んでいた衛兵とやりあったが、どうやら衛兵が負かされたようだ。 予想通りだとリオは笑った。 離れていたところで見ていた彼は、深くため息をついた。 一呼吸入れ、剣を鞘から抜いた。 その場で軽くステップを踏み、宿屋から出て来た3人へと駆けだした。 姿勢を低くして走るのは、障害物で自分の姿を隠すため。 障害物になりそうもないこの場所でも、姿勢を引くする事で敵の視界外を狙っている。 賊の一人・金髪の青年の前で高く飛翔し、彼が振った剣の軌道から避ける。 着地した場所は3人の後ろ。 咄嗟に剣を振った体格の良い女性の剣を受け流し、隣にいた黒髪の女性を蹴り飛ばした。 剣を受けが成したせいで、あまり蹴りに力はない。 相手がよろめく程度のもの。 追撃を避けるためその場には留まらず、先程の金髪の青年へと向かう。 剣の筋は悪くないが、大降りに振る隙を狙う。 小技で相手を牽制し、背後から来る剣筋を見切ってかわす。 頭上から突然出現した氷のやりの雨を、転がるように全部避ける事に成功した。 「ふふッ、馬鹿じゃないのかもしれない。でも、馬鹿ね」 相手に聞こえるか聞こえないかの声。 次の動作に入ろうとした時、後ろから舌打ちが聞こえた。 『嗚呼、時間切れか』と苦笑した。
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