隣人のシグナル

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藤一(ふじはじめ)と席が隣になって、約一ヶ月。 彼と話すのはなかなか楽しかったり、うざったかったりする。 黒いさらっとした髪。 羨ましい限りの卵肌。 くったりと力の抜けそうな、ゆるーい笑顔。 見た目的にはなくもない感じといったところなのに、この彼女欲しがり加減はなんなんだろうといつも思う。 というかその慢性的に口をついて出る「彼女ほしーなー」が間違いなく弊害になっているよと思う。 「……ねえ、鴻野」 「なんですか」 「幸せってどこにある」 あと、こういうよくわからない質問を突如ぶん投げてくるところとか。 つまり中身がダメなんだ。 そうだ、悪いのは中身だ。 ……ダメじゃん、藤くん。 「どっかにあるってものじゃないでしょう」 「でも確実にある場所があるよ」 「どこ」 「恋人の目の中に」 はい、アウト。 「藤くんの彼女にはなりたくないかも」 「え、なんで」 「めくるめく君の瞳にカンパイ的ワールドが広がりそう」 「素敵じゃん」 藤くんはへらっと無気力に笑う。 本当はそんな君がめくるめく君の瞳にカンパイワールドを繰り広げるところなんか、全く想像がつかないのだけれど。
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