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それは春に咲いた花々が散り始めた季節の、よく晴れた日のことだった。肌寒い風が吹いていたような気もするが、正直、その日のことはあまり覚えていない。きっといつもと同じように起き、食事を摂って、日中は友人達と語り合う。そんな風に過ごしていたのだと思う。退屈と言われれば退屈な、幸福と言われれば幸福な一日。今、ぼくがその日のことで覚えているのは一瞬の光と深い闇。戸惑いと哀しみ。そんなところだ。
ぼくはその当時、エスタリア公国という国の軍に補助兵として所属していた。補助兵というのは、その名の通り、班の中で補助をする役割だった。上からの指示をみんなに、前線の状況を上に伝えるのが主で、交戦中は戦闘兵の後方支援をしたり、戦闘後は医務兵と供に負傷した人達の手当をするのもぼくたちの仕事だった。
戦闘兵二人に医務兵と補助兵が一人ずつの四人というのが、その頃のエスタリア軍の基本的な班の編制だった。
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