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少女は、昨日までは毎週毎週変わらない日替りの時間割を繰り返していた。窓際の真ん中の席に座って一時間目の英語にうんざりしながら、先生のなんちゃって英語に耳を傾ける。二時間目の数学の数式に四苦八苦しながらたどり着いた一つの答えに歓喜して、三時間目の古典では古くも美しい日本語の良さを知った。
時折、かじりついてた机から離れて青空を見上げる。のんびりと空を泳ぐ白い雲に羨望の視線を向けて、食べ物の形をした雲を探した。
「あーぁ、お腹空いた」
頬杖をつきながら誰にも聞こえないようにぽつり呟くと、隣の席の少年がチラリと少女を盗み見る。
どうやらその微かな呟きを聞かれてしまったのだろう、少女が少年を鋭く睨み付けた。
「おーい、音無(おとなし)ー。聞いてるかぁ?」
古典担当の男性教諭が教卓から少女の名を呼ぶ。少女は、慌てて姿勢を正すとノートを書いている素振りを見せた。
そんな少女の様子を見て、少年は僅かに笑い声を漏らす。
少女の名は音無 奏(おとなし かなで)。昨日までは何処にでもいる少し気の強そうな女子高生に過ぎなかった。
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