第2話【ベリフェメールの魔女】

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 彼女の生まれた村はとても小さく、とても貧しかった。それも領主より貸し出されている農地という農地は度重なる害虫の被害と天災により、ここ三年近く実りを迎えたためしは無かったのだ。 住人達は飢えをしのぐ為、枯れた樹の皮を剥ぎ、雑草という雑草を口に運び、果ては空腹で生き絶えた遺体に群がる野鼠にまで手を出す始末。同じ人間同士を口にしなかったのが不思議でさえあっただろう。  この状況を見かねた領主はこの村を放棄、住人達には別の住処を与えてやろうと馬車を向かわせ別天地へと送り届ける手筈であった。 だが、いざその村に到着してみれば人の姿はおろか鼠一匹確認すること叶わなかった。 人っ子一人居ない廃墟の村となっていたのである。  移送団を取り仕切る年輩の騎士長は「間に合わなかったか」、と項垂れ撤収もやむ無しと考えていた時だった。 廃屋という廃屋に生き残りは居ないものか、いや、せめて亡骸だけでも葬ってやれたならと調査に向かわせた部下が、涙を浮かべながら何かを抱え報告に戻ってくる。 見やれば―― 骨と皮だけしか存在していないガリガリに痩せ衰えた幼き少女。 彼女が、唯一の生存者であった。
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