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12
久保はゴールデンウィーク直前の月末に久しぶりに出勤した。
進藤医院で貰った診断書を提出して、入院していたのを知ると副担の春日も少しは同情してくれた。
とはいえ、同情と小言とは別物らしい。
「――まったく、この仕事は体が資本なんですから。肺炎に掛かって入院とか! 自己管理はしっかりしてください!」
「……はい。以後、気をつけます。」
亜希は理事長の計らいか、休職扱いになっていた。
教室に行くと、久々に会った生徒たちが心配していたと声を上げる。
「久保セン、入院してたって本当?」
「ああ。」
「鬼の……なんだっけ、涙?」
「いや、金棒じゃね?」
「それを言うなら、撹乱だ。辞書を引け!」
戻って早々、小早川と新藤のお馬鹿な回答にツッコミを入れる。
「うわっ! ずっと春日先生で良かったのに!」
「――ほう?」
久保が険しい表情になると、二人して「冗談、冗談」と繰り返す。
「……あ! 久保セン、もう大丈夫?」
「おう。……この通り、全快してるよ。」
そういう割りには、久保は、いまいち元気が無い。
予鈴のチャイムが鳴る。
「――ほら、三人とも。授業するぞ?」
そして、古典の授業にも復帰する。
「ここが『係り結び』な。そこで居眠りこいてる小早川、この和歌の『縁語』は何だ?」
「ふぇ? 援護射撃??」
クラス中からくすくすと笑い声が漏れる。
「――今のところ援護射撃をしてくれそうな奴はいなさそうだぞ。ほら、起きろって。」
「ふぁーい。」
小早川は大あくびをする。
再び、教室に笑い声が上がった。
「よーし、今日は久々に宿題出すからな!」
「ゲッ! マジで?!」
「大マジだ。」
「えーっ! やっぱり、もうちょっと入院しておいてよ。」
「――何だと? 新藤。」
久保は「シンドウ」と呼び掛けると、声を詰まらせる。
生徒たちが、一気に久保に注目する。
「久保セン?」
「ん……、ああ。新藤は中間、-5点採点な。100点でも95点。-5点を出すなよ?」
「何ッ、今の間で考えてたのがそれ?! 久保セン、横暴過ぎ!」
「はいはい。だから、頑張れよ。――はい、日直。」
「久保セェーン! マジ勘弁してえぇぇ!」
教室には新藤の半泣きな叫びが轟いた。
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