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「……痛ッ!」  久保の指がギリギリと肉に食い込む。  目の前には憤怒の形相をした久保がいた。 「……亜希に何をした?」 「――私は何も知らないッ!」  久保は万葉を突き離すと、部屋を飛び出す。  そして、肩を怒らせたまま、カウンセラー室の扉を乱暴に叩いた。  今まで何日も反応の無かったカウンセラー室の中で人の気配がする。  久保は乱暴に扉を開け放った。  ――不安と緊張の入り混じった面持ち。 (……亜、希だ。)  亜希は久保の姿を認めると、後退りして部屋の中に逃げ込む。 「――亜希、待って!」  亜希の腕を掴むと、一気に引き寄せる。  線の細くなったものの、ちゃんと亜希が腕の中にいる。  さっきまでの万葉の言葉など、どこかに吹き飛んで、ただ胸に迫ってくる愛おしさに息が詰まった。 「亜希、良かった……。」  行方不明になる前の亜希より、いくぶん目の下の隈は取れている。 「……久保セン。」  亜希が自分を呼ぶだけで胸が痛い。  ――言葉にならない。  ――言葉にできない。 (生きてた、無事だった……。)  安堵の想いに抱き締める力が強くなる。 「……久保セン、離して。」  亜希に拒絶の言葉を言われても、久保は腕を解いてくれなかった。  その言葉に耳を貸す余裕などできず、ただ激しい想いに抱き締め続ける。  後ろから遅れて入ってきた万葉は、カウンセラー室に入るとドアを閉めた。 「――万葉さん、話は決裂?」  ドキリとして久保が顔を上げる。  簡易ベッドの方から高津の声がする。  むくりと起き上がる気配がすると、腕の中の亜希がそわそわし始める。  衝立ての陰から高津が現れて、久保に抱き締められてる亜希を眺めてから、むくれている万葉へ視線を移した。 「――結果は分からないって言ったわ。」 「ああ、確かにそう言っていたね。」  ――力が抜ける。 「何であんたが……。」  その隙に亜希は久保の腕を逃れて、高津の胸に飛び込んだ。 「亜希……ッ!」  亜希は高津の影に隠れるように回り込む。 「お帰り。」  不貞腐れるようにぷくッと頬を膨らませると、亜希は無言で高津に抗議する。 「そんなに怒るなよ? 折角の感動の再会だろう?」  しかし、目の前の亜希は久保の存在を無視して、上着を脱いだ高津の背中に甘える。
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