第弐話 赤毛と猫と金将会

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一月前のことだ。 僕は倒壊寸前のおんぼろビルの前で 立ち尽くしていた。 なぜこうなったのか? どうしてこうなったのか? 考えるまでもない、研修先が決まる 前、やらかした事件。あれがすべて の元凶だ 。 紆余曲折、雑多諸々あったにせよ、 中央高塔群の中にあるビルの一つを 半壊させたのだから。 今更それを嘆いたところで仕様がな い。 時間は戻らない。 巡士予備隊から罷免されなかった だけでも奇跡と言ってよいだろう。 奇跡と……。 「いや、これは、辞めさせられたよ うなものか」 僕は傾いた「ジャンク商会」の看板 を見上げてため息をついた。 巡士予備隊。は三年間の学科過程の 終了と共に各隊に一年間研修に出るのが習いだ。 一年の研修を終え、研修先からの評価と、最終試験の成績を踏まえ、合否と、合格の場合は配属先などが 決定されるわけなのだが。 僕の研修先は、所謂、協力他社。 つまりは、正規の巡士隊ではないのだ。 特殊士官であるならば、必要技術取得のために他社に出向 することももちろんある。 けれども、僕は一般隊士である。 他社への出向などまず有り得ない、ましてや、悪名高い十 三区。 巡士隊の居ない十三区、管轄外の十三区なのだ。 ……けれども、そう嘆いてばかりも居られない。 僕は重い気持ちのまま、おんぼろビルに脚を踏み入れる、一階部分は簡易な喫茶店を併設したモーターサイ クル店、ジャンク商会の事務所には横にある、やや、右に傾いた鉄製の 階段から登るようになっている。 赤茶けた階段に足をかけたそのとき、けたたましい、鍋やらなんやらが床に転がる音と共に、転がるよう に……、いや違う文字通り少女が転がってきたのだ。 「捕まえてください!!」、
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