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なんだか妙に懐かしい夢を見ていた。 内容は思い出せないけれど、何か 大切な。
きっと、かすかに漂う甘い香りのせい ろう。
……何の香りだったろう?
甘ったるくて、香ばしくて。
再び、目を覚ましたとき、僕は見 知らぬ部屋に寝かされていた。
クルクル廻るシーリングファン。 闇の中に浮かぶ、透明な蝶々。 そして、僕を見つめる、見知らぬ 少女。
一気に意識が浮上する、見知らぬ 少女が僕を見つめていた、いや。 見つめると言うよりはもはやガン見。凝視である。
深い黒色の瞳には、僕の顔がはっき りと映っている。
空に浮かぶよ うに見えた透明な蝶々は、彼女の真っ黒い短髪に留められた髪飾りだった。
「目を覚ました?」
抑揚のない、どこか感情が稀薄な 声色で彼女が尋ねる。
僕が無言でうなずくと、少女はす くっと立ち上がり僕に背を向けて歩き出した。
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