第弐話 赤毛と猫と金将会

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僕はあわてて起きあがると「あのっ!」立ち去ろうとする背中に声をかける。 少女は振り返ると、再び、無言で僕を見つめる。 なんだか、無言の圧力に気圧されて「えっと、どこへ?」と、僕は間抜けな質問を投げかけた。 少女はしばらく考えると。 「部屋に戻る」 「え? どうして?えっと、ここは?っていうか、君は?」 状況がつかめず、僕は片言の言葉でなんとかそれだけを吐きだした。 なんだか、頭がまだはっきりとしない。 少女はやっぱり、少しも表情を変えないまま「センはあなたが目を覚ますまで見ていろと言った。 ジャンク商会の事務所、スズマル」 と質問にだけ簡潔に応えると背を向けて、今度こそ部屋を出て行ってしまった。 何だったんだろうあの子は。 とにかく、僕はジャンク商会の事務所のソファの上に寝かされていたらしかった。 薄いブランケットが上からかけられていて。 状況を整理するため、僕はあたりを見渡した。 年季の入ったテーブルに椅子、窓際に置かれた大きなデスクの上には、古い型のタイプライターが置かれていた。 熊の彫り物や、こけし、何だか奇妙な形の駒が置かれたチェス盤。 雑多に物があふれている割に、室内は清潔で、すべてのものがよく磨きあげられている。 柱にかけられた振り子時計に目をやれば、先ほどからまだ三十分もたっていないようだった。 立ち上がろうかとソファから足を下ろす、僕の頭を冷やしていたのだろう、 氷嚢が床に落ちた。 それを拾おうと僕が手を伸ばしたとき、事務所の扉が再び開かれて、彼女。スズマルさんが帰ってきたのだろうかと、そちらに目を向ければ、先ほど階段から転がり落ちてきた白髪の少女が立っていた。 「まだ、起きてはいけないのデスよ。先生はしばらく安静にするようにとおっしゃっておりました」 そう言って、少女は新しい氷嚢を僕の頭の下に敷くと、再び横になるように促す。 深い緑の目に、まっ白い髪のツインテール。 黒を基調としたエプロンドレスは、いつか、映画で見たメイドさんそのものみたいで、思わず先ほど押しつけられた、大きな胸に目が行って僕は赤面した。 少女はそんな僕の様子に、少し不思議そうに首をかしげながらも「軽い脳しんとうだ そうです」と笑顔で告げた。 「そう、ですか」
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