第壱話 けぶる街とジャンク商会

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……僕は自転車の前篭に新聞を後ろには牛乳を積み込む。 商会が入居するビルからは、トントンと小気味良い音が響く。 僕のことを見送ってくれたセンちゃんが、朝食の準備を始めたのだろう。 明け方の十三区は、上からの湿気が降りてくるためか、濃いめの靄が立ちこめる、他地区ならばそんなことはないのだが、恐らく、空気清浄が上手くいっていないのだろう。 町工場や老舗の飲食店などが軒を連ねる、下町がけぶる様子は、きっと写真やなんかで見たなら、幻想的だろう、けれども実際は複雑な臭いとともに湿気がまとわりつき、言葉では言い表しがたい不快感がある。 無秩序に張られた、電線に配管。 靄を避けるように、高らかに、ビルの間に間にはためく洗濯物。 上三層で過ごした僕にはいささか生活臭がきつすぎるが…。 「おう、ぼうず、今日もがんばってんな」 「おはようございます」 「おはよう、アゲハちゃん」  「どもです」 「会長さん、昨日も盛大にやらかしてたよ」 「すいません、よくいっときます」 廃材屋のおじさんに、配達したての牛乳、その一本をもらい、パン屋のおばさんに、食パンの切れ端を、それを咥えて走り出せば、店仕舞いをしているバーのマスタに声をかけられる。 マスタの顔は青い。 うちの会長に盛大にやられたのだろう。 今帰ったようなので、僕が配達を終えて事務所に帰る頃には爆睡中だろうか? いや、そのまま、仙谷楼に行っている可能性も高い。
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