第壱話 けぶる街とジャンク商会

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だから、どちらに転んだとて、結局の所、後悔するのだろう。 難儀な性分だと、我ながら思う。 ○ 崩れそうな赤茶けた階段を上り、事務所に足を踏み入れれば、おみそ汁の良い香りが漂う。 こんがりと焼かれた鮭と、ふっくらとした卵焼きがテーブルにはすでに用意されていた。 「お帰りなサイっ、アゲハさん」 事務所横に備え付けられた……、いや、キッチンの横に事務所が備え付けられていると言う方が正確だろうか? なんにせよ、コンロの前には、ジャンク 商会の雑務、そのすべてを一挙に引き受けるセンリツちゃんの姿があって。 怠惰で怠慢な人間しかいない、ジャンク商会の構成員とは思えぬほどのかいがいしさで洗い物に精を出していた。 「スズマルさんは、もう出かけたの?」 「ハイ。 今し方、ガッコに行かれたのデスヨ」 そうなんだ、と答えながら僕は内心ほっとする。 僕はどうも、スズマルさんが苦手だ。 年下の可愛い女の子。といえばそうなのだけれど、感情を一切感じさせない黒い瞳は、何だか、僕には恐ろしく感じられる。 どう接すべきか分からないのだ。 センちゃんは、手早く洗い物を済ませると、椅子に座った僕に今日のおみそ汁はホウレン草です。 ニコニコ笑いながらそう告げる。 ツインテールに結ったまっ白い髪が、ユラユラゆれた。 ひねくれ者の会長と、無感情なスズマルさん、何だか笑顔に裏がありそうなシトロさんという、癖の強い人間に囲まれているだけに、センちゃんの屈託のない笑顔や仕草は見ているだけで癒される。 どうして、こんな良い子が、こんなどうしようもないところでくすぶっているのか。 まったくもって理解できないが、けれども、センちゃんがいなくなれば、きっと、僕はここではやっていけないだろう。 清楚なエプロンドレスを翻し、センちゃんは、おひつから、ご飯をよそって、湯気の上がるおみそ汁と共にテーブルに用意してくれる。
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