第壱話 けぶる街とジャンク商会

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「おナスが良い塩梅に漬かってオリマシタ。 スズちゃんは、これでご飯三杯召し上がりました」 そう言いながら、僕の前に供されるのは、どう考えても即席で作られた胡瓜の浅漬けで。 「おナス……は?」 尋ねれば。 「この世は無常なのデス」 と、沈痛な面持ちで返された。 要は、スズマルさんが全部食べてしまったのだろう。 「でも、胡瓜も、ンまいですよ? 板昆布がはいってるですよ、ちびっと、ぬたっと、ぬめっとしています。あれですね、ローションみたい」 センちゃんの表現はともかくとして、叩き胡瓜のお漬物も確かにおいしい。 ホリホリと食べながら銀シャリをかきこむ。 ホウレン草が沢山入ったおみそ汁と、濃い目に入れたお茶が、さらに食欲をそそる。 「お米さんは沢山あるので、沢山喰らうとよいです」 お代わりと差し出した茶碗に、さながら仏壇に供えるご飯のように、山盛りの白米をセンちゃんぺたぺたと盛りつける。 いくらなんでも盛りすぎだろうと、突っ込みたくなるが、真剣なおももちでペタペタやっている彼女は非常に愛らしく、まあ、いいかと思えるのだから、男の業と言うもの は深いと思う。
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