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あまり相手もしていなかったが、次々と入れ替わり立ち替わりでめまぐるしい周囲に少々疲れを感じ、ぼーっと周りを見ていたら、やたら動きまわる人がいる事に気付いた。
同じの会社の後輩で、和風美人だと人気の一之瀬 紫が先ほどの立花さんを紹介して回っている。
確かに一之瀬さんは美人で、今日も長い黒髪をおろし、紺のワンピースで決めていた。
きっとあの流れでこちらにも来るんだろうななんて考えていたら、会も終盤になって俺たちの周りを女が去っても来ることはなかった。
俺たちはやっとゆっくり他の同僚や先輩とも話していた。するといきなり自分の名前を呼ばれた。
『凛ちゃん』
俺は声の主の方を見ると、あの立花さんだった。
「えーっと、秋月さん!秋月凛さん。
…へぇ、改めて読むとすごいキレイな名前だねー!凛ちゃんって可愛いし。私もこんな風に女らしい名前がよかったなー。」
それを聞いた俺は気づいた時のことを考えると面白くて、一之瀬さんの焦り方にも内心かなりわくわくしていた。
そして少しいじめてやりたくなった。
都合のいい事に俺に気づかず二つあいていた隣の席に彼女が座って来た。
俺はポケットから名刺を出すと、彼女の前に差し出した。
(さぁ、どんな反応をするのかな…?)
謝る姿を想像してにやけそうなところを我慢した。
彼女はこちらもまっすぐ見ると一瞬見つめ、すぐ名刺に気付き謝って来た。
正直眠かったし、先ほどまでの女たちの来襲で疲れていたので、それ以上自分からは何もせず、それを黙って聞いて彼女をボーっと見ていた。
(なんか面白い事してくんないかな…)
そんな他力本願で、妙な期待を目の前にいる初対面の女性に向けていた。
しかし立花さんはいきなりもぐもぐと大口で食べ始めて、『勿体ないですもんね』と言いながら美味しそうに食べた。
(よく食うなー。しかも美味しそうに。でけー口。)
そう思ったことを、後でいじわるっぽく言うと、少しイラッとした顔の後、わざとらしい作り笑顔をするだけで噛みついては来なかった。
(なんだ…つまらないな。碓氷の時はかみつくんだろうに…)
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